私的ここが良かったよ「おんな城主直虎」!「真田丸」へ続く2年がかりの戦国大河ドラマ【時代劇コラム】
Category: 時代劇 2017年12月17日「直虎って資料あんまり残ってない人物なのにどうするんだろ」
「さすがに真田丸を越えるドラマにはならないでしょ」
と思っていた一年前の私、お元気ですか。
一年後の私、どんでん返しを食らってますよ。
というわけで、勝手にランキングした私的ここが良かったよ「おんな城主直虎」ベスト3を書き連ねたいと思います。
1位:第二の主人公・徳川家康
政次も万千代ちゃんも之の字(ゆきのじ)も、井伊谷のみんな、出た人全員、主役級。
だけどやっぱり、第二の主人公は家康だったと思いました。
昨年の大河ドラマ「真田丸」と合わせて補完関係になっていて「2年かけた大河ドラマ『徳川家康』だったのでは!?」と思うほど、彼の深掘りっぷりが見事だった。
真田家から見た「敵の家康」と、徳川家から見た「内の家康」。まさに「歴史は色んな視点から見ることが面白い」を体感しました。
「敵の家康」と、「内の家康」
真田丸では内野聖陽さん演じた家康が、ビビりながら(特に伊賀越えのビビりっぷりなんて何回見ても笑えるエンターテイメント。今後の大河ドラマで踏襲していってほしい)、次第に「わし、天下取るわ」と覚醒。
主人公の真田幸村をぶっ潰す! と狸親父に変貌する様子を一年間、視聴者は見ていました。
そりゃあもう、堺雅人さん演じる幸村、彼のパパやお兄ちゃんを一年間応援してきたわけだし、家康がこれまた憎たらしい演技をするもんだから
「お願い幸村、家康を潰してくれ…歴史変えていいから…ほんとムカつく…でも家康勝たないと、私の好きな江戸時代が始まらない…」
なんて思ってました。
ところが、おんな城主直虎では、その家康像の裏側が描かれています。
織田信長から「敵に密通している」と言われのない濡れ衣を着せられ、出世前から支えてくれたスーパー美人の妻・瀬名(せな)と、出来の良い長男・信康(のぶやす)を処刑することに。
だってドラマ初期からさ〜、美少女の瀬名ちゃん(しかも演じてるの菜々緒さんだからハイパーきれい)に、ぼっちで碁を打っていた家康くんが片想いして、なんやかんやで結婚して、かわいい長男・信康と瀬名が家康を応援して膝枕してる様子なんかをさ〜じっくり見てきたわけですよ。
悲壮感が言葉にならない。
戦国時代、行きたくねえ…
これを機に「織田に屈せずともよい力を持つため、敵を味方とする」という生き方を目指し始める家康。
おっ、天下人の誕生か! と思いきや。
直後の戦で敵を味方にする戦法を取りますが、信長に「戦で攻め落とせ」と命令され結局、敵を殲滅。
せっかく生きる指針を見つけたのに…
「上手くはいかぬのう…」とぼやく、家康演じる阿部サダヲさんの哀愁が、まさに応援したくなる上司でした。「あなたこそ天下を取るべきお方!」と思い始めちゃう。
そりゃもう、人質生活を送り、妻子を殺され、嫌いな戦をして…って生活を送ってたら、天下泰平の世、欲しくなるよね。戦を続けようとする真田家を潰そうとも思うわな。
つらすぎる人生経験を積んだ上で家康は世渡り上手な狸親父になって、天下取りに向かったのか…と、単なる「天下人」ではない、苦労や憎しみを背負った徳川家康という人を見続けた2年間でした。
家康の天下取りのルーツは井伊直虎、という解釈
この家康が天下泰平を目指す大元に、井伊家が関わっていたかもしれないという解釈がまた面白かった。
以前も書きましたが、主人公・直虎(柴咲コウ)の井伊家は跡継ぎや家老を次々と殺されます。
あんな思いは二度と嫌だ。から、幼なじみで親類の瀬名だけは逃げろと、直虎は必死に説得します。
しかしそれも虚しく瀬名は処刑に。
争いがある世の中だから、大切な人を亡くす日々は終わらない
=だったら争いのない世になればいい
=家康にそんな世を作ってもらおう
=家康の側近になった義理の息子・万千代を諭す
=万千代が妻子を亡くした家康を励ます
=家康がんばる
家康が天下を取ると思い至る裏には井伊直虎の意志があったのでは、という演出でした。
こう書くとなんか安直というか簡単そうというか…
違うんですよ、一年間大河ドラマを見てきた身としては、この直虎様の切実な願いに涙&ヘドバンうなづきなんですよ。
初っ端から直虎の親、親戚、初恋の相手、無二の部下であり幼なじみが続々と戦で亡くなっていき、ほぼ毎月、視聴者はお通夜状態という展開。
私、もう心底、「戦国いやだ…戦はもういい…」と思っていました。直虎が「家康に平和を作ってもらおう」と思い至ったのにも納得しちゃう。
2位:歴史の「もしかしたら」をドラマチックに描く神脚本
そしてもうひとつ、今年の大河ドラマに唸ったのが、歴史の「if」の汲み上げ方。
通説で悪とされる人の裏を読み取ろうとするような脚本でした。
本当の歴史なんて当時を生きた当人しか知り得ないんだし、大河『ドラマ』なんだから、ドラマとして展開しちゃる!って気概をうかがったような気がします。
特に面白い描かれ方をしたなあ、と思う登場人物をピックアップしてみました。
初恋の城主を命がけで守る裏切り者・小野政次
はい、何と言っても高橋一生さん演じる小野政次(おの・まさつぐ)。
大河ドラマの高橋一生がしんどい【時代劇コラム】
さんざん政次への賛辞と追悼は書いたのでここではあまり言及しませんが、とにかく最高だった。ありがとうございました。
「主を裏切ったくせに数日しか城主になれなかった愚の家老」と評されがちな政次が、しんどいくらい直虎ちゃん好きな政次くんとして描かれました。
そして直虎ちゃんを守るためにあえて裏切り者の汚名を着て処刑される、血まみれの最強ラブストーリー。
思い出しただけで胃が痛い…
本能寺の変の裏には今川氏真がいた
今川家って織田信長に負けたイメージとか、なんか麿っぽいイメージ(完全に戦国BASARAの影響)あったのですが、今年の今川家はひと味違いました。
特に今川氏真(いまがわ・うじざね)。通称「ぼったま」。
坊ちゃまじゃない、ぼったま。
京都で遊んでる〜あはは〜を装いながら実は情勢をスパイ。
親の仇・織田信長の前でにこやかに道化を演じながら、腹の中では「仇を討ってやる」とメラメラ。
今までののほほん今川さんイメージがかなり払拭されました。
いざという時に目が光る、肝が座った戦国武将の息子っぷり! すげえよ尾上松也!
そして描かれ方として何と言っても面白かったのが、信長の滅亡となった「本能寺の変」が起こったきっかけは氏真にあったという名脚本。その手があったか!
「仇を討ちとうはないか?―わしは討ちたいぞ」と直虎に持ちかけ、しかし「…そなたにとってはわしも仇か」とこぼす、思慮深いぼったま。
一見歴史の表舞台から降りた、しかも過去には裏切り裏切られの仲だった今川家と井伊家の当主同士が、本能寺の変の計画を企てる。もうぞくぞくしちゃうよお〜
最終回では北条と和睦してどんちゃん騒ぎの徳川家に、ちゃっかり参加してる氏真がいてほっこりしました。こりゃ江戸も生き抜く一族になるわ。
本当はいい人・織田信長
今年の信長と市川海老蔵さんのマッチ率高すぎでした。こわすぎ。
海老さまって貫禄あるキャラクター演じるの本当に、語彙が無いのでこの言葉しか出ないけど、お上手ですね。
この信長がまた怖くて、余計なセリフを一言も発さずただ居るだけ。
海老さまが演じていることも相まって、「何も言わない、何もしない」が恐怖を一層煽る。
ジャパニーズ・ホラーに近いものがあるかも。
徳川家が大きくなるのを阻止めるため、家康の妻子の処刑を言い渡したのか。
暗殺するために京都に家康を呼んだのか。
真意がまったく分かりません。
だから周りが勝手に「あの人怖いわ」「多分おれのこと殺そうとしてるんだわ」って忖度していって、『魔王・信長』像が出来上がる。
しかし本能寺の変直前に、のんきに「弟分の家康にもハクをつけてやりたいから、コレをお土産にしようかな〜」と選んでいる信長さんが登場。
視聴者にだけ、「今年の信長、裏のないいい人じゃん…威圧感とDV癖があるだけで…」という事実が発覚したのでした。
思春期の赤鬼・井伊万千代
幼少時代を演じた寺田心くんの笑顔の面影を残しながら、15歳の万千代を演じた菅田将暉氏。演技うますぎ。
15歳らしく(?)「殺す! ぶっ潰す!! ウォォォ!!!」って思春期バリバリでした。思わず「かっっっわいいねえ」ってテレビの前で声が漏れちゃいました。母性本能くすぐり系男子。
その万千代ちゃんが瀬名たちの死をきっかけに「井伊の再興とか、戦で勝ちたいとかよりも、平和な世になるほうが重要」と気がつき、直虎の意思を継ぎます。思春期を見てきた視聴者としては涙。大きくなったねえ。
そして最終回では直虎の「直」と政次の「政」をもらって「井伊直政」の名を貰います。これが最高のクライマックス!!
去年の真田丸で幸村が、赤備えの井伊の陣を見ながら「あちらにもあちらの物語があったのだろう」と言いましたが、まさにその通り。
血まみれ泥まみれになりながら生きた直虎たちの意思を継いだ直政くんなのだから、戦国のバーサーカー・赤鬼になるのも納得です。
いつか菅田将暉氏で時代劇「井伊直政」を見たい!
優しい演出と、しっかり守る史実
「この歴史、実はこうだったのでは?」という見方を提示してくれる脚本って、歴史ドラマとしては「いやいやありえなさすぎでしょ。」ともなりがちですが。
今年は「細かいけど大事な歴史」もきちんと描いていました。織田信長から贈られた井伊家ゆかりの寺に伝わる茶碗とか。本能寺トラブルの時は忠勝が伝令として京都に先に行くとか。
伝わっている定説とifを絡めていくのがミステリー小説のようで爽快でした。
3位:視聴者を信頼しきったロングパス伏線
それにしても今年の大河は「まるでハリー・ポッターシリーズかい」ってくらいの伏線でしたね。
毎話見てきて良かった、と長い視聴者を裏切らない演出が続出でした。これが名高い森下脚本か。
例えば、人質時代の若き家康が、ひとりで打つ碁盤を「ガッシャーン! 殿!」と乱すのはいつも瀬名。
瀬名が亡くなり放心状態の家康の碁盤を、ガシャンと乱す万千代。その瞬間ハッと「瀬名」とつぶやく家康。
大河の序盤で何気なく見たシーンをさらりと想起させます。ううっ泣ける。
また、政次の辞世の句は「次は陽の下で碁を君と打ちたい」。最終回の最終シーンは明るい陽の元で碁を打つ直虎たちというロングパス演出!
直親の笛や、直虎と頭の2本の水筒や、瀬名の紅、信長の茶碗、そして白い碁などなど、小物周りの伏線使いも絶妙。
伏線張りすぎてるけど全部回収するし、解説もそこまでしないから、何だか視聴者を信頼してる感が伝わってきました。
あと忘れちゃいけないのがサブタイトルの小気味良さ。
「嫌われ政次の一生」
「悪女について」
「信長、浜松来るってよ」
「本能寺が変」
オマージュしすぎ、面白すぎ。しかもタイトル負けしない本編の内容でした。
そして何よりありがとう楽しかったですを伝えたい、主演の柴咲コウさん。
「歳を取っていく役に合わせて、乾燥した肌に見せたくて、化粧水つけるの控えてました」って仰ってて、マジかそこまですんのか…って驚愕。唄うような美しいお経も、猪突猛進な殿も、ふとした瞬間麗しすぎる空気感も、素敵でした。
長くなっちゃったから今回はこのくらいに。あ〜楽しい大河ライフだった!