柳家三三を好きな人は粋な人【落語コラム】
Category: 落語 2017年7月7日
柳家三三(やなぎやさんざ)師匠を好きな人は粋な人、ってイメージが勝手にあります。
人気の中堅落語家の中でも、しっぽりとした古典落語をじわりと聞かせる技巧の人だからかなあ。
二つ目(真打ちという、落語会で一人前扱いされる階級の一歩手前の期間)の頃から三三目当てのファンが会場を埋めたり。厳しいイメージのある立川談春(たてかわだんしゅん・談志の弟子)や柳亭市馬(りゅうていいちば)がこぞって三三の上手さを絶賛したり。
若手の頃から今でもずっと、ファンからも落語家からも評される三三師匠。落語家が落語家を公の場で褒めるって相当ですよ。真打ち昇進した時なんて「これからの落語界を確実に背負って立つ逸材」って言われてました。もう、すごい人。
芸だけじゃなく見た目も老成してるから、まだ40代前半って知ってびっくりしました。
あと、一部の人からは「三三」を文字って「ミミちゃん」って呼ばれてるんですね。かわいい。
すっとぼけて、悪口言ってギャグ言って。気づいたらすっぽり噺に引き込む
そんなミミちゃん、もとい三三師匠。いつ見ても飄々と安定感があります。「今日も絶対面白いぞ」って思わせてくれます。
三三だけじゃなくて人気落語家さんにはたいてい当てはまると、これも勝手に思ってることがあって。「袖から座布団まで歩いてきて正座する」までの動作がいつ見ても同じで安定感ある人って面白い気がするんですよね。
三三は猫背気味でひょこひょこ歩くけど自信が無いわけじゃない、風格がある。「待ってました!」って言いたくなる。
2017年7月鈴本演芸場下の席、三三がトリだったのですが、これを実感しました。「あれ、ちょっと見てない間にこんなにどっしりした感じになったんだ」って。どっしりと言っても、三三、見た目は細いのですが。
こんな姿をコンスタントに見れる寄席が近くにあって良かった〜。
このトリの日に演じたのは『お血脈(おけちみゃく)』。演じる人は多くはない、レア古典です。
この噺、地噺(じばなし)っていうジャンルでして、普通の落語とはちょっと違います。落語って通常その役になりきって会話やしぐさを演じるんだけど、地噺は状況説明をつらつらとしていく形式。上手くないと、正直聞いてて眠くなっちゃいます。
しかしそこは流石の三三。どんな落語を演じても、面白みのない地味な場面でも、スッと落語の世界に入らせてくれる技巧の人。
『お血脈』も技術とクスリと笑わせるセンスで聞かせてくれました。
枕の段階から林家正蔵(はやしやしょうぞう)と林家三平(はやしやさんぺい・笑点の新メンバー)、立川談志への愛ある悪口を挟みつつ。
「前座に『プラチナって知ってるかい?』と言ったら『彼女にプラチナのネックレス、プレゼントしました』だって。前座のくせに金持っている上に彼女がいるなんて、プラチなやつだ」
なんて飄々とギャグをかましながら客席を伺い。
あっという間にサゲまで完走。
三三の落語は聞き終わった後の充実感がいつもすごい。「お金払ってイイもの見たな」って実感できます。
三三が演じるお年寄りがかわいい
三三師匠、最近はNHKの『落語 THE MOVIE』にコンスタントに出ていましたね。
この番組については一之輔の記事でも書いたんだけど、簡単に言うと落語家の語りに合わせて、役者たちが口パクで演じる、よくこんな面倒くさいことやったなっていう奇跡の番組です。
この番組で『釜泥(かまどろ)』って噺を演じたのですが、見てて改めて「三三が演じるお年寄りがかわいい」って思いました。
三三が醸し出す独特のお年寄りの喋り方。あれ、技ももちろんなんだけど、口の形から生まれてるんじゃないかと思うんです。
口の両端をグンと引き下げて下唇を上げる、口を開ききらずに、しわがれた声で喋る。するともうそこには、腰の曲がったおじいさんが見えてくる。
泥棒にひと泡ふかせるために、自分の家の釜に入ろうとするおじいさんと、やや振り回されるおばあさん。この掛け合いを、わしゃっとしたお年寄りボイスでやるのがかわいいのなんの。
着物のセンスも素敵です
あとですね、私そんなに着物に精通している訳ではまったくないのですが、三三師匠の着物のセンスが抜群に素敵だと思うんです。
他の落語家さんよりも「今日の着物の組み合わせ素敵」って思うことが多い。
先述した鈴本演芸場のトリの日は、確か黒の羽織に黒の半襟、うすーい緑の着物。
この日、大入りだったもんで一番後ろで立ち見してたから、定かではないんだけど…黒でビシッと決めつつ夏らしい爽やかな薄緑がなんとも粋でした。身長180センチで細身だから、スッと映えます。
いつも半襟までこだわってる感じがするんだよなあ。
そんな見た目の楽しみも抱えながら、三三の落語を今日もいそいそと聞きに行くぞ。