理想の上司・柳家さん喬と喬太郎の師弟関係【落語コラム】

Category: 落語 2017年5月18日 shitei

落語好きデザイナーが、「落語のここが良いのよ面白いのよ〜」というやり場のない気持ちを、独自の視点でお届けする連載です。

落語家の師弟関係って、普段あんまり見えないのですが「親子落語会」などで垣間見えることがあります。師弟を「親子」って表現するのもなんか、良いよね〜。
弟子の親代わりとも言えるお師匠様は、芸だけでなく落語界の作法も弟子に叩き込むと言われています(そうしない師匠もいるらしいですが)。

春風亭一之輔の師弟関係についてはこちらの記事でもちょっと言及しました。
今日は、柳家さん喬と柳家喬太郎の師弟関係について書きます

「THE落語」を演じる柳家さん喬

私の大好きな喬太郎(キョンキョン)は、柳家さん喬師匠の弟子。

さん喬師匠は、見た目通りの穏やかな口調で会場を包み込むようなお方です。
「THE落語」を演じるというか、「これぞ脈々と続いてきた伝統の芸能・落語だな」という貫禄を感じさせます。
そうだ、2017年春の紫綬褒章を受章されましたね! 名実ともに、成熟した落語家さんです。

落語に慣れてきたら、ぜひさん喬師匠の『短命』とか『井戸の茶碗』を聞いてきただきたい!
「さん喬師匠といえば人情噺」とファンの間で言われるほど、緩やかな空気と、登場人物の多彩な感情を緩急つけて演じます。いつの間にかさん喬師匠の江戸ワールドに引き込まれます。

キョンキョンはアップテンポな落語も得意だけど、さん喬師匠ゆずりの人情噺も巧みだよァ〜。

喬太郎を救った師匠の言葉

そんな師弟関係、グッと来たエピソードがありました。とは言っても、見たんじゃなくて本で読んで知ったエピソードなんですけど。

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その本とは『この落語家をよろしく――いま聴きたい噺家イラスト&ガイド2010』(講談社 広瀬 和生(著)、勝田 文(イラスト))。

著者の広瀬さんが行った落語会のことがテンポの良いエッセイで綴られています。落語初心者さんには超おすすめの本です。

落語を語る本はたくさんあるけど、「〇〇の落語が分かってこそ通だ」とか「古典落語じゃなきゃ落語じゃない」みたいな、こだわりの強い論調も多々あるんですよね。
だけどこの本は押し付けがましさが一切ないから、私みたいな落語ハマって数年のビギナーとしてはすごく心穏やかに読めます。次に見たい落語家さんを選びやすい本です。

柳家師弟のエピソードが掲載されていたのは、「吹っ切れた喬太郎」という段落。2009年10月中野でおこなわれた「さん喬 喬太郎親子会」でのことです。

当時はキョンキョンが人気出始めて引っ張りだこだった頃。
「落語ブームと騒がれる中で新世代のトップランナーとして注目を浴び(中略)重荷になっているのかも…」モヤモヤしているのでは? と広瀬さんは思っていたそう。

この親子会でキョンキョンが演じたのは『すみれ荘201号』。途中、主人公の口を借りて

もう派手な仕事はやめたいんだよ! 来年は寄席と学校寄席だけで食っていこうかと思っているんだよ!
また『小言幸兵衛(こごとせいべえ)』か『竹の水仙』かって自分で思うもん!
稽古する暇が無いからネタが増えないんだよ!」

とブチ切れたんだとか。
よくキョンキョンはネタでこんなことを言いますが、この時は「心の叫びに聞こえた」と著者の広瀬さんが綴っています。

弟子は師匠を育てることができる

その後、さん喬師匠との対談コーナーがスタート。

師匠が「さっきのは何だったの?」と聞くとキョンキョンは、

「自分には同じ噺を毎回新鮮に聴かせるだけの芸が無い。なので申し訳ない。」

と言ったそう。

こんな、リアル相談室みたいな対談、滅多に落語会で聞けないです。よほど切羽詰ってたのかなあ。

そしてキョンキョンに対してさん喬師匠は諭していきます。

「お前を追いかけてくださるお客さんはお前の噺が聴きたいんだ。『同じ噺じゃ飽きるだろう』なんて思う必要は無い。『喬太郎の噺』が聴きたいから何度でも来てくださるんだよ

と。そうそう、そうですよねお師匠様…!

「でも正直、『喬太郎なら何でもいい』とお客さんに思われちゃうと自分が潰されそうで」

とキョンキョン。すかさずさん喬師匠はこう言います。

「潰れるなんて考える事は放漫なんだよ。
(中略)
名人は芸があるから同じ噺でも飽きさせないんじゃない、いつも違うんだよ。
潰れたらもう一度作れば良い。俺なんか最初から潰れてる。

おまえは売れるのが早すぎた。船底に穴が開いているな、と思ったら、まず身を捨ててみろ

な、な、なんて優しいお師匠様…!! ガチ諭しです。

さん喬師匠は紫綬褒章を授与された際のインタビューでも「高座ではいつも前座と思っている。楽しいと思うのは年に1回ぐらい、お客さまと自分が一体になれた時ですね。」なんてすごく謙虚で厳しいことを言っているから、余計に説得力があります。

そしてさらに、こう付け加えたそう。

「少し聴いていないうちにおまえは随分成長した。
弟子は師匠の名を残すことが出来る。
おまえが立派になって、どこへ行っても『さん喬の弟子の喬太郎』と言われる。
ありがたいことだ。

師匠は弟子を大きくしてやる事は出来ないが、弟子は師匠を大きく育てることが出来るんだよ

もう、これ、ほんと、生で聴きたかった…!!!
思い悩んでる弟子にこんなに親身にあたたかく活を入れてくれる師匠、いるんですね…! こんな上司が欲しかった…!
キョンキョンが真摯に落語に向き合ってるからこそ、こんな言葉をかけてくれたんでしょうね。

この「公開小言」が、キョンキョンの悩みを吹き飛ばし「俺はこういう落語家なのだ」といい意味で開き直させたのではないか、と広瀬さんは考察しています。(あくまでいちファンとしてこう思う、と主張する広瀬さんの語り方が読みやすくて良い!)
毎日落語を見に行っている方がおっしゃることなので、本当にそうなのでしょう。奇跡の会だったんだな〜!

このエピソードを知ってから、落語家を単独で見るのもいいけど親子会で2人の様子を追いかけるのも楽しいなと思うようになりました。
弟子のいないところで褒める師匠や、師匠の居ないところで悪口を言いながらも尊敬していることがにじみ出ている弟子。なんとも言えません。

というわけで、落語の師弟関係って良いなあっていう話でした。

フリーランスクリエイター。デザイン、イラスト、写真などやってます。 トダビューハイツ大家。 落語は柳家喬太郎師匠、時代劇は『江戸を斬る』『鬼平犯科帳』『清水次郎長』『一心太助』あたりが好き。
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