想像以上の良作!柳家喬太郎主演『スプリング・ハズ・カム』+『文七元結』を聞く豪華独演会【落語コラム】

Category: 落語 2017年12月26日 sprng

今年のクリスマスイブは、柳家喬太郎師匠(通称・キョンキョン)の主演映画『スプリング・ハズ・カム』+落語という、「映画と落語一緒にやるんかい! すごい抱き合わせ商法!」な独演会に行ってきました。

ちょっとレアなシチュエーションだし、独演会だし、チケット取れて良かったなあ。

懐かしさと後悔を思い出す。節目に見返したくなる映画『スプリング・ハズ・カム』

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ドラマなどに度々出演されてきたキョンキョン。いよいよ映画の主演です。
タイトルは『スプリング・ハズ・カム』。
正直、想像以上に良かったです。泣いた。

大学に入学した一人娘が、シングルファザーである父と一緒に東京で部屋探しをする。
今までの広島での2人での生活が終わり、別れの小旅行となる。

その過程で様々な人、出来事と出会い、そして少し、親子の関係が進んでいく。

映画『かもめ食堂』や『めがね』+『寅さんシリーズ』を割ったような透明な空気感でした。
大きな事件があるわけではないし、リアリティも高くはないんだけど、押し寄せる波のようにじわじわと感情が揺すられる作品だった。

いい子、むしろいい子すぎて「もっと我儘言っていいのに」と言われる娘役は、石井杏奈ちゃん。
キョンキョンとは撮影前から、自然な親子関係を作るために練習を重ねてきたそう。

キョンキョンと「山手線ゲーム」をした時に

「杏奈ちゃんは元E-girlsなんだから、『渋谷』とか『原宿』っていの一番に言うと思ったのに、『大森』って言ったからこの子はいい子だってわかりました」

なんてエピソードも聞けました。いい子だ。

この2人の、少しぎこちない親子関係の演技がすごかった!
男手ひとつで育ててくれた父親に対する甘えと遠慮。
独り立ちするひとり娘に対する寂しさと心配。

いるいる! こういう親子!

というか、キョンキョン演技うますぎる。時折落語家っぽいんだけど(笑)、娘を不安げに見る視線とか、ふとした瞬間にこぼす台詞がリアルすぎました。

このふたりが部屋探しをする町が、祖師ヶ谷大蔵。
・・・はぁ〜絶妙な舞台チョイス!

都心だけど一歩奥に入った、商店街と畑のあるエリア。これだけでグッと来ちゃう。

この町で、隣の部屋がチャラ男だったり、オカマだったりを経て築30年のちょっと古めなアパートに出会います。

風通しが良くて静かで、和室があって、古い木材が使われてて。

隣の家にはおばあちゃん大家さんが住んでいて、内見に来た親子を「周辺も知ったほうが良いでしょう」と散歩案内してくれます。

このおばあちゃん大家さんがいきなり戦前の話を始めるあたりとか、物件の様子が、どうにも私が大家業を祖母から継いだ物件に似ていてそわそわしちゃいました。

杏奈ちゃんが「なんか良い。懐かしい感じがする」と言ってこの部屋を選ぶシーン、うちの物件でもないのに勝手に嬉しくなっちゃった。

ラストシーンで杏奈ちゃん演じる璃子は、亡くなった母親について父から初めて聴きます。

2人の出会い、結婚を決めた日、新婚旅行の話。

部屋探しの一日で、娘が母親のように優しくしっかり者に育っていることを実感した父は、「最後におんぶさせろ」と言い、背負いながら「女の子はな、もうちょっと我儘言っても良い」とポツリこぼします。

「家族だからこそ今まで言えなかったこと」を、向き合わずにあえておんぶの形で伝える父親。

親を遠い広島に残す璃子の不安や切なさ、自分の為に娘の未来を狭めたくないから「東京へ追い出す」と言う父親の気持ちがひしひしと。

独り立ちとか、家族に伝えられなかったこととか、もう瞬時に自分と重ね合わせてしまって、涙涙です。会場からもホロリとする音が。

だけどこのおんぶシーンをしつこく長く流さないあたりが粋な映画でした。

あ、あと何と言っても山村紅葉さんがいい味出してます。存在感半端ない。

『江戸っ子刑事(デカ)』っていうドラマの撮影をしている山村紅葉、って設定で出演されてたんだけど、なぜか祭りのハッピ着てたり「てやんでィ」って言ったり。
江戸っ子刑事、観たすぎる。(笑)

キョンキョンが監督に「江戸っ子刑事ほんとに撮影してくださいよ」って言ったら、「ああいうのはお金がかかるからやだ」って言われたとかなんとか。

一瞬たりとも飽きさせず、江戸ワールドに連れてってくれる喬太郎の『文七元結』

映画の後は独演会。

この日の演目は新作落語『ほんとのこというと』と、『文七元結』。
まさか文七元結が聞けるなんて!

ふたつとも、結婚と家族をテーマにした噺なので、映画に合わせてチョイスされたのかなという感じ。

落語中、娘を呼ぶシーンで「璃子! …じゃない」なんてくすぐりもしっかり入れてくれました。

ちょうど私がいま、結婚などの人生の節目にいることもあって、この落語が染みること染みること。

『ほんとのこというと』
・・・結婚の挨拶のため彼氏の実家へやってきたカップル。
歓迎を受けるものの「こんな素敵なおうちのお嫁さんに私、なれない」と泣き崩れだす彼女。
理由を聞いてみると「私の弟はヤク中、妹はデリヘル」と告白し出して…

なんていう、ぶっ飛び新作落語です。

私の落語デビューはキョンキョンの『ハワイの雪』『時そば』『ほんとのこというと』。
当時平成のギャルや、「っつーかさぁ」喋りの若者を、このぽっちゃりおじちゃんがリアル演技するなんて! と衝撃を受けました。

いやはや何度聞いても面白い。

『文七元結』
・・・腕は良いが博打にハマり借金まみれの大工・長兵衛。
家に帰ると、ひとり娘のお久が突然いなくなった、と妻が泣いている。

そこへ吉原の女郎屋から遣いが。

「娘のお久は自ら身売りをして、父親の借金を返そうとしている」ことが発覚。

娘の涙ながらの願い、それを聞き入れ情けをかけてくれた女郎屋の女将の心意気を知った長兵衛は、心機一転働くことを決意するが…

『ほんとのこというと』から一転、ぐっっっっっっっと聞かせる古典落語の真骨頂がかかりました。

キョンキョンの文七元結、音源でしか聞いたことが無くて、生文七元結は鳥肌立ちました。まさに名人芸だった。

この噺は登場人物が多いし、30分以上はかかる長い演目だし、「江戸っ子人情」に泣かされる切実としたシーンをしっとり聞かせる技術と、そしてもちろん笑いの要素も必要なわけで、一人前の落語家さんしかかけられない演目なんです。

見事に一瞬たりとも飽きさせず、江戸ワールドに連れてってくれました。

余談ですが、『文七元結』は実在した店の名前です。

元結(もっとい)とはチョンマゲや日本髪の元を束ねる紙紐のこと。質の良い紙紐を考案したのが文七さんで江戸っ子にたいへん人気だったとか。

以前私は上野の古民家の修復のお手伝いに行ってまして、江戸後期から続くそのおうちのタンスに、なんと、『文七元結』と書かれた桐の箱があったんです。

箱の中には髪と紙紐が。あの落語の元ネタにもなった文七元結で買い物をして日常遣いをしていたなんて…江戸も明治も遠くないなと思いました。

映画も落語も、失礼ながら登場人物に自分を重ねてうるっと来たり身が引き締まったり。
それほど引き込まれる作品に浸かれた、インプットの多い落語会でした。

フリーランスクリエイター。デザイン、イラスト、写真などやってます。 トダビューハイツ大家。 落語は柳家喬太郎師匠、時代劇は『江戸を斬る』『鬼平犯科帳』『清水次郎長』『一心太助』あたりが好き。
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