「前代未聞」を追う落語界の織田信長・立川吉笑【『サイノウラボ』に行ってきたよ】

Category: 落語 2017年8月28日 lab00

立川談志(だんし)師匠の孫弟子・立川吉笑(きっしょう)さんの落語会に有難くもお招きいただき行ってきました。

その名も『サイノウラボ vol1.人を笑顔にする仕事』。
クリエイターの人事を長くされているこじまさちよさんが気になる人をゲストに呼び、インタビューをまじえながらその面白さの源を追求しようという研究会です。

そう、落語会じゃなくて研究会なんです。この研究会の栄えある第1回目のゲストが、吉笑さん。

タイトル通り、落語は「人を笑顔にする仕事」です。これを研究するために、数いる落語家の中でも吉笑さんがゲストに呼ばれたのは何でだろう…と思いながら会場に足を運んだわけですが、大いに納得。

立川吉笑さんは、落語を心から愛しながら「前代未聞」を追う、落語界の織田信長でした。

「前代未聞であり続けたい」

信長ってみんなが馬に乗って刀を振り回してるご時世に新式の鉄砲を揃えて敵をボコボコにしちゃう前代未聞の戦国男子だし、かと思えば天下統一に向けて緻密に計画を練ってるし。はたまた「あいつやばい」って思われるほどの当時じゃあり得ないファッションをして、自己ブランディングするし。

戦国時代を「信長より前、信長より後」って区別をできるくらい、革命的な人物なんですよね。

吉笑さんと言えば、

・落語界の中でも立川流と言う…非常にざっくり言うと大きな後ろ盾を持たない「異端集団」に所属し
・自分と同年代のお客さんをメインターゲットにするため、サイトやチラシデザインにも気を配り(特にサイト! めちゃめちゃ可愛いです!!!)
・オリジナルの新作落語を作り続け
・東京大学や京都大学で教授をゲストに講義と落語をするゼミを開催して
落語論を説く本を出版(しかもタイトルは立川談志師匠が出した本をもじる)

などなど、「自分がどんな落語をしていくか」を戦略立てて活動しているお方。

しかも「前代未聞であり続けたい」と言い切っています。
「人と同じことをやるのも良いけど、前例がないことに挑戦するのは例え失敗してもすべてがプラスになる。」と考えているそう。

もう、信長です。
江戸時代以降で一番落語家人口が高いと言われる今、色んな落語家さんがいますがここまで理論派で実行力のある方、見かけないです。キャラ立ちがすごすぎる。

そして吉笑さんは、落語愛がアツい!
今回の『サイノウラボ』は落語を初めて聞くお客さんも多かったことから、そもそも落語とは、という話をしてくださいました。

その中で何回も「だから落語は良い」「落語業界は非常によく出来ている世界」とおっしゃっていました。

落語は仕事を続けられる仕組みができている素晴らしい職業

吉笑さん、一度お笑い芸人を目指して吉本のオーディションを受けていたそう。同じ「笑い」の分野でも、若手芸人はバイトとお笑い活動を並行して生活できる程度の収入。

対して落語家は、必ず師匠に入門する制度ができています。仕事ももお給料もあるので、バイトをする必要がほとんどありません。
ご飯や住居の面倒を見てくれる場合もあるので(師匠にもよりますが)、「食うのに困らない職業」なんだそうです。

しかも、仕事の相場がきちんと決まっていて、相場より低い仕事は基本的に受けないというルールがあるんです。

誰かが相場を下げたら、業界全体の相場が下がる恐れがある。落語に限らずどの業界でもそうですよね。

師匠に来た相場よりも安い仕事は、前座(落語界の階級で一番下のランク)にとっては高い仕事。時に師匠がその仕事を弟子に回してくれるのだそう。

さらに、定期的にお寺や学校で開催される落語会は出演者がだいたい決まっています。その出演者の持ち場(言ってしまえば定期収入)を乗っ取らないように自分は営業を掛けないなど、お互いに配慮をしているんだそうです。

それぞれがきちんと自分の持ち場を守って、相互に助け合ってできているんですね。落語業界が長く続いている秘訣かも。

しかし!
いま落語家の人口が爆発しかけてるので、このルールもいずれ崩壊する可能性があるかも、とのこと。

東京で一日30公演開催されてる落語会に対して、おそらく東京にいる落語ファンは一万人ほど。この一万人を取り合う、落語家の戦国時代に突入しかけているんですね。

この既存の一万人に加えて、「ちょっと落語に興味あるかも」な新規ユーザーを獲得すべく活動しているひとりが、言うまでもなく吉笑さん。どうやって開拓をしていくのか、今後のご活躍からますます目が離せないです!

自分が戦える武器を見つける

もうひとつ、面白かった話が「落語って伝統芸能と見られがちだけど、落語=大衆芸能×伝統芸能」ということ。

もともと江戸時代の落語は、近所であった笑い話や、日本の昔話、怪談を聞かせていました。
お客さんと同じ時代の話を、お客さんと同じ着物を着て、舞台というよりは同じ目線の所に座って話していました。

しかし時が経つに連れて、洋服を着たお客さん相手に、着物を着て、江戸時代の話をする「伝統的な」面が目立ってきちゃったんですね。

だけど落語の内容は、江戸時代以降の古典的なものもあれば、平成の話をする近代的な新作落語もある。時代やお客さんとともに育つ「大衆芸能」でもあるんです。

ただ、圧倒的に伝統的と言えるポイントが「技術」の世界であるということ。職人技と同じで、先代たちが作り発明してきた、喋りの技術が落語の上手い下手を分けます。

落語家の一人前が60代くらいと言われることからも分かる通り、落語の技術は年数や練習数に左右されます。

じゃあ年をとるまで一人前になれないのか、若いうちは多くいる落語家の中で埋もれるしかないのか、と言ったらそうじゃない。

技術を磨くのは落語家みんながやっていることだから、加えて技術以外で自分が戦える武器を見つけ出してひとつ頭を出す戦法でいく。それを実行しているのが、吉笑さんだと思います。
それは
・吉笑さんが学者・教授たちと科学や数学の話をするなかで生まれるオリジナルの新作落語でもあるし
・自分と同じ若い世代をターゲットにする戦略でもあるし
・落語を俯瞰して分析し続ける姿勢
でもある。

そもそも落語を愛していないとここまで分析して没頭できないですよね。吉笑さんの落語愛、すごい。

落語に限らず、特に技術を要する職業って、「本業の技術×他に特化したこと」がある人ほど需要があるし収入口が増えると思います。
なんでも書けるライターさんより、「ライティング技術×料理研究家」って人の方が他の人に仕事を奪われないし、依頼金も高いし、その業界で名前も売れやすい、みたいな。

表現者なら、自分の表現を考えないとってことですね。でも、なかなか考えられないよな〜…

「しきたりの国・落語」と思っていたけど、吉笑さんみたいに今から自分が落語家としてい生きていく切り口を模索している人が、落語家戦国時代を勝ち抜いていくのでしょう。

この日演じられたオリジナル新作落語「くじ悲喜(びき)」って噺(はなし)からも、その武器磨きの様子が伺えました。
商店街のくじ引きの噺なんだけど、噺が進むに連れて主役はくじ引きを引く人じゃなくて「くじの紙」そのものだと分かってくる。しかも紙は意思を持ってる。

落語によくある、状況を説明するト書きが一切なく、会話のみで噺が進むのもすごく新鮮でした。聞いていて脳みそを使うお噺。
まさに吉笑ワールドが完成されていました。

落語は、しきたりや仕組みが完成されている業界だけど、戦い方の余地がまだまだある「人を笑わせる素敵な仕事」。
吉笑さんの仕事っぷり、自分の仕事を見つめ直そうと兜の緒を締め直すきっかけになりました。

落語初心者、必見!吉笑さん流・落語の入り方

最後に吉笑さんが「落語に興味あるけどどこから聞けば…」とお思いの落語初心者さんのために、落語入門の仕方をお話していたのでご紹介します。確かにこれなら落語ハマりそう…!

1.立川志の輔師匠(ためしてガッテンの人)の落語をCDでも(youtubeでも)良いから聞く

※DVDをしっかり見るより、お皿洗いなど単純作業しながら音声で聞くのがおすすめ

2.タイミングが合えば志の輔師匠の独演会に行く

3.「落語面白くないな〜」と思っても3回くらい違う噺・違う人のを聞く。

※3回聞けば自分に合った落語家が見つかるはず!

4.興味があるなら寄席に行っても良いでしょう

※「寄席は動物園」だそう。(この表現、的確でめっちゃ笑った)

志の輔師匠以外には、NHK『落語ディーパー』に出演されている春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)師匠も、初めての落語におすすめだそうです。

一之輔師匠は私も推しです。
(関連記事:ジャンプの主人公みたいな、選ばれし落語家・春風亭一之輔【落語コラム】

…と言うか、吉笑さんの落語会、要チェケラですよ!!
だって信長だから、次世代の新しい落語の世界を見せてくれます。

フリーランスクリエイター。デザイン、イラスト、写真などやってます。 トダビューハイツ大家。 落語は柳家喬太郎師匠、時代劇は『江戸を斬る』『鬼平犯科帳』『清水次郎長』『一心太助』あたりが好き。
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